<<<新鮮な豆で淹れた珈琲は、なによりも、おいしい!>>>
私が「自家焙煎」に興味を持つようになったのは、喫茶店を営業していたときでした。
当時、コーヒー豆は大手焙煎業者のものを仕入れて使い、出すコーヒーは、一度味見し
てから出すようにしていたのですが、徐々にその味に納得がいかなくなってきたのです。
そうした折、自家焙煎の豆の味に感動してから、自家焙煎に興味を持つようになったの
です。
そこで、平成元年に200gの豆が焼ける自動焙煎機を買いました。小さなマシンですが、
これをきっかけにして、コーヒーの魅力に取りつかれていったのです。
そして、知れば知るほど、さらに色々な焼き方を試してみたくなってきました。しかし、
機械任せではバリエーションも限界が来ます。しだいにもどかしくなり、直火式の2s釜
の焙煎機を購入することになりました。
<<<「独学」の不安感は、名店との味比べで解消した!>>>
釜を買ってからは、まさに試行錯誤の毎日。時間を忘れて焙煎に没頭しました。わず
かの手順の違いで、全く違った味に焼けてしまうからです。誰かに教えを請えばよかった
のでしょうが、喫茶店の営業があるため、そうも行きません。
店と並行して豆売りも始めました。自分の納得できる味が出せるようになり、新しい豆
を出すたびに、メニューを一品削るようになりました。
しかし、豆はなかなか売れません。豆と喫茶の売上が、低いレベルで半々になってしま
いました。このままでは店が中途半端になってしまう。こうした危機感から、商売をどちら
か一本に絞って出直そうと考えました。
しかし、本気で挽き売り一本でやっていくとなると、あらためて不安も出てきます。自分
がいいと思ったコーヒーの味でも、それが本当においしい味なのか、客観的な裏付けが
ありません。師匠にあたるような人がいれば、そのお墨付きでひと安心できるのですが、
それもありません。ここが独学の難しさといっていいでしょうか。おいしいと思っても、自
信を持って勧められないのです。
どうすればいいか、悩んだ末に、自家焙煎の豆で人気の、ある名店に行ってみること
にしました。そこのコーヒーと自分の焼いたコーヒーとを飲み比べてみて、「とても力が及
ばない」と分かったら、きっぱり辞めようと思ったのです。
飲んでみたら・・・、さすがに名店と評価されているだけのことはあります。ストレート
コーヒーは実においしいと感じました。しかし、ブレンドは、「ひょっとして、私のコーヒーの
方が、おいしいのではないか」と感じました。このことがあってから、3年前に挽き売り専
門に切りかえ、今は忙しい時では1tを売る店になりました。
<<<コーヒーの関心を高め、お客を感動させる商品に>>>
喫茶店に憧れ、店を始めようとする人は、コーヒー好きが多いはずです。だから、淹れ
方を極めたり、店の雰囲気に凝ったりしました。しかし、食事メニューに力を入れるように
なって、コーヒーへの意識が次第に薄れてきたように思います。
今、シアトル系カフェのコーヒーが若者に人気を集めています。喫茶店の低迷は、コー
ヒー消費の落ち込みではなく、残念ながら一番の売り物だったコーヒーが、一番の弱点
メニューになっているからなのです。
私自身の経験から、今の時代でも、「料理がおいしい」と言われるより、「コーヒーがお
いしい」と言われた方がうれしい、という経営者の方は多いはずです。おいしい味を作り
上げたことの満足感よりも、それを認めてもらった満足感は、何倍も強いものです。
それだけに、コーヒーに関心が集まっている今日、これからはカフェや喫茶店の方も、
自家焙煎を学ぶべきだと思います。
自家焙煎を通じて、お客を満足させられるコーヒーを作ることで、喫茶店やカフェでは
店が強くなるのです。食事をした後の一杯のコーヒーのおいしさで、店の印象はさらによ
くなるからです。
私は常々、コーヒーを「食品」ではなく、「エンターテイメントの一つ」と考えるようにして
います。コーヒーは、お客に感動してもらえる飲み物だからです。喫茶店やカフェで、こう
したメニューは他にはありません。お客に満足してもらい、その結果として自分も満足で
きる。その満足感は、芝居でいうと、舞台が終わった後の拍手喝采を受けている感覚と
いってもいいでしょう。
(2000年11月号「喫茶&スナック」より一部抜粋)
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